360号

 本紙『延寿』が今号で360号となりました。隔月で年六回発行なので、60年続けたことになります。

 創刊した昭和三十三年はお寺はまだ文京区小石川指ヶ谷町にあり、墓地は寺とは離れた場所で雑司ヶ谷法明寺墓地の一角をお借りしていました。戦時中に強制的に引き倒しにあった堂舎を旧地に再建することができた時期なのかもしれません。先代住職である寺井明道上人も三十歳頃と若く、都庁に勤めながら家族を持ち、将来に多くのそして大きな夢をお持ちだったのではないだろうか、と推察します。街並みが整備され、東京タワーが背を伸ばし、数年後には東京オリンピックが開催されるんだと高速道路や霞が関ビが建てられ、「東洋一」という言葉がよく使われたのではないでしょうか。そして新幹線は世界一の高速鉄道となり、戦前の「つばめ」からは大きな飛躍と感じられたでしょう。一方で空は次第に狭くなり煙で覆われ、光化学スモッグや車両からの排気ガスによる喘息など、現代病が拡がりました。

 人間で六十年と言えば還暦。干支が一巡したことになります。延寿院は墓地とともに郊外・八王子に移転し、はや五十一年が経ちます。振り返ることはたやすい事ですし、未来に思いを巡らすことも楽しいことですが、私たちは何をして来たのでしょうか。何を残して来たのでしょうか。数百年先の人たちが土を掘り、この地代の地層はゴミしか出ないね、ということにならないように、他人任せにせず、丁寧に責任を持った生き方が一人ひとりに求められています。

 私は春から一つ役職が減り三つ増えました。さぞや忙しいでしょうね、と言われますが、そんなこともありません。ほとんどが今まで行ってきた仕事の経験が役立っています。それはやらされた仕事がなく、全て自分が作ってきた仕事であったからだと感じています。八王子での仕事の量が増えましたので、一層皆様方にご満足いただけるよう努めてまります。

 これから冬本番を迎えます。どうぞご自愛ください。

「延寿」360号 掲載