身命を愛せず 無上道を惜しむ

 春の始の御悦びを申し上げます。

 今のこの状況が始まってから、二年が経ちました。この間に総理大臣が二回代わりましたが、政権に変化はありません。イギリスでは保守党と労働党、アメリカでは民主党と共和党が二大政党で政権交代が行われます。日本では戦前の一九三〇年前後に立憲政友会と立憲民政党が並立したことがありましたが、わずかな期間であり、五・一五事件の軍事クーデターによって政党内閣は崩壊しました。その後は近衛文麿を除くと軍人出身の首相が続き、敗戦を迎えます。戦後は象徴天皇制となり、選挙制度も変わり民主主義は大きく前進しました。しかし、五十五年体制は自民党と社会党による二大政党制のようですが、万年野党と言われたように、政権交代は起こりませんでした。二十一世紀となると、中選挙区制から小選挙区比例代表並立制になり、政権交代しやすい選挙制度が「衆参のねじれ」を生み、比較的短命な政権が「決められない政治」と「国際的地位の低下」をもたらしたかのようになりました。二〇一一年の東日本大震災と福島第一原発事故は、翌年には民主党政権を吹っ飛ばしました。

 それから十年が今の姿です。コロナ禍は政治社会に大きな影響を及ぼしていますが、更に個々人や家族という単位へものすごく大きな影響を与えつつあります。もう他人事ではなく、自分ごととして考えざるを得ない機会を与えてくれています。日蓮聖人は『立正安国論』にこのように書かれています。

  世皆正(よみなせい)に背き、人悉く邪に帰す。故に善神は国を捨て去り聖人は所を辞して還らず。是を以て魔来たり鬼来たりて、災難並び起こる。

  仏法隠没(おんもつ)せば~衆生及び寿命色力威楽減じ、人天の楽を遠離し、皆悉く悪道に堕せん。

  法華経に云く、我身命を愛せず、但(ただ)無上道を惜しむと。

  国は法に依って昌(さか)え、法は人に因って貴し。国亡び人滅せば仏を誰か崇むべき。法をば誰か信ずべきや。先づ国家を祈って須(すべか)らく仏法を立つべし。

 どんな国というよりも、どんな社会であったらいいのか、どんな暮らしがしたいのかを主体的に考える人が増えていくことでしょう。ただし、七六〇年前に言われたように「身命を愛せず 無上道を惜しむ」と次世代に持続可能な社会となることを期待します。

 皆様が心穏やかに本年一年を過ごせますよう、元旦より祈念しております。

「延寿」379号 掲載