車輪の下

 梅雨が例年より長く続いたせいか、蝉の鳴き声に勢いを感じません。八王子の最高気温は記録が更新され40度に迫る勢いで、この暑さにやられているのかもしれません。COVID19こそ暑さにやられてくれればいいのにと思ってしまいますが、そう上手くはいきませんし、そんなことを言える状況でもありません。昔の記録を見ると疫病の流行には加持祈祷を行っています。神が何かの理由によって悪神となり、僧侶の祈願によって目を醒まさせ、もとの善神と成すことを「退散」という表現を使ったようです。

 仏教では「四諦八正道」を基本とし、自身がどのようにして物事を見たり考え、そして行動すべきかを示してくれています。19世紀にプロイセン王国からドイツを帝国としてまとめた宰相ビスマルクは「愚者だけが自分の経験から学ぶと信じている。私はむしろ、最初から自分の誤りを避けるため、他人の経験から学ぶのを好む。」と言われ、この言葉が現在にも「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。」と伝えられています。このことは成功から学ぶというよりも、失敗を振り返り記録し、失敗を恐れず被害を最小限にしていく、ということなのではないでしょうか。

 仏典は教えています。「物事は常に変化していることとして見なさい。」「あらゆる出来事には必ず原因があり、それは、欲望や執着によって起こる。」と。

  『ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。もしも汚れた心で話したり行ったりするならば、苦しみはその人につき従う。—車をひく牛の足跡に車輪がついて行くように。』(法句経)

 いつの間にか日は短くなり、夜になると虫の音が聞こえてくるようになりました。お彼岸を迎えます。お寺に安心してお参りください。

「山風」 84号 掲載