謹賀新年

春の始の御悦びを申し上げます

 ちょうど一年前の本紙で医師稲葉俊郎さんの文章を引用しました。実際に書いたのは十二月であり、まだ「コロナ禍」が意識されていない頃のことでした。それから一年経った今だからこそ再度掲載します。

  「わたしたち人間は弱いからこそ、助け合うのです。人が助け合えなくなるのは、弱さを忘れ強いと錯覚しはじめたからでしょう。生命は弱さという支えがあるからこそ強いのです。」

 『はやぶさ2』の使命は、なぜ地球に「水」があるのか?その起源を探ることにあったと報道で知りました。一つではない不思議な「何」かによる連鎖が今であり、さらに未来をもたらします。そのことを多くの人が無意識に気づいていたからこそ、当たり前に何に対してでも「難有(ありがたい)」と言ってきたのではないでしょうか。まだ探査の結果は出ていませんが、恐らく想像するに全くの偶然が「命」をもたらしたに違いありません。

 仏教では覚りの過程として、声聞・縁覚・菩薩という階級を設け(三つの乗り物)、それぞれに必須課題として四諦八正道・十二因縁・六波羅蜜を身につけることを修行としました。それは、身の回りの「こと」に気づき、その「こと」が今だけではなく、空間的・時間的なつながりをも持っている「こと」が判り、その「こと」がより良い方向に向かうように、自らもその「こと」の一部であるという自覚のもとに能動的であり、この「こと」を繰り返し実践し反省(懴悔)しながら、利他の精神に基づく大きな目標を掲げ成就を願う(誓願)「こと」が、菩薩道であり「仏となること」であります。何があってもこの「こと」は間違いありません。ますます『南無妙法蓮華経』とお唱えしましょう。

 皆様が心穏やかに一年を過ごせるよう、元旦より祈念してまいります。

「山風」 85号 掲載