今月の初旬、富士五湖の一つ河口湖周辺に早朝にいなければならない用事ができ、電車の便を調べたところ、当日では間に合わないことが判りました。その前日は法務が立て込んでおり、薄暗くなってから中央線に乘ることとなり、車中から景色を眺めようにも家々の灯りしか目に入りません。

 年齢を重ねると、新しいことや普段はやらないことに後ろ向きになります。電車に乘るのも大月から富士急に乗ったことがありません。みどりの窓口で相談して買おうとしたところ、数人が待っており、発車まで七分しかありません。少し不安な気持ちで隣にあった券売機で「かいじ」のきっぷを購入し、車中での楽しみと食料も購入し旅気分を味わおうと算段しました。ところが特急はわずか二十七分で到着。乗り換えは駅員さんに尋ねると親切に教えてくれ、特急の切符を入れてからスイカをかざすだけで通過することができました。ここからは三両編成のローカル線の旅の始まりです。あたりは真っ暗で、家路に就く人や学生さんなどが乗ったり降りたりと、単線なので上り線と下り線のすれ違いのために停車時間が長かったりと、小一時間の旅路です。もうすっかり暗くなった終着駅の改札に知人の出迎えがあり、ほっとしました。翌朝、目が覚めると、庭前にある低木は昨夜は見れなかった紅葉のグラデーション、標高千百メートルの世界でした。少し離れた所からは眼前に、屏風のように、皺のくぼみに沿って雪が滑るように張り付いた富士山がどっと構え、上空を雲が走るように駆け抜けています。

 もう間もなく冬を迎えます。遠く離れた国では戦争によって電気が滞り、一層寒い生活を余儀なくされていると聞きます。今回は日本に一時避難されている方々にお会いする機会を得ました。私が言葉ができないので、人を介してのやりとりですから充分ではありませんが、各々と握手をしたその感触を大切にしてまいります。今年は十月に行ってきた「お会式法要」を十一月にしました。例年より少し寒いこともあり、お祖師さまの頭にのせる「綿帽子」をうっかり忘れがちでしたが、十月からちゃんとお載せしました。皆さまには延寿院の紅葉をお見せできることでしょう。

 これから冬本番を迎えます。どうぞご自愛ください。

「延寿」384号掲載