ヴァガボンド

 九月十日に住職を引継ぐための儀式(法燈継承式)を滞りなく行うことができました(本紙二頁参照)。日蓮宗から辞令が下りたのは三月三十一日で、実際に職に就いたのは四月十二日でした。年に一度の役員会、毎月の定例行事、日々の事務や法務などを、従前から勤める僧侶や職員に支えられ神輿に乗るように進めています(ありがたいことです)。

 着任して初めにしたことは、本堂の燭火を洋から和へ変えることでした。和ロウソクは洋ロウソクよりも燈に動きがあり、急に立ち上がる炎は、人間に心地よさや快適を与えるとされる1/fのゆらぎで、背景に映す陰影とともに「心のやすらぎ」をもたらします。

 さて、住職とはどのようにあるべきでしょうか。寺に居る、仏事を主宰する、寺の維持に責任をもつなどなど。しかしながら、最も大切なことは『法華経』を弘通することへの専心。そしてそれには僧俗いずれからも支援者・共感者を得、弟子を養い、継承者を得る努力をし続けなければなりません。となると、寺に逼塞しているわけにもいかず、むしろヴァガボンド(放浪者)の気分を持ち続けるべきではないか、と私は思うのです。寅次郎は諸国で露天商を生業とし、時折、柴又の「寅屋」に帰ります。回りの人たちも跡取りとして遇し、妹サクラの夫ヒロシが立場を奪うことはありません。とてもとても寅さんになれるわけもありませんが、寺や町へ外からの空気を吹き込み、安心で寛げるお寺作りを行ってまいります。

 お檀家の方々には寛容に、どうぞよろしくお願いいたします。

(本立寺主催の旅行案内【山登り】【荒行堂ご祈祷】を同封しました。一緒に旅行に行きましょう)

「山風」76号 掲載