新年を迎えるにあたり未来を考える

 春の始の御悦びを申し上げます

 さて、住職に就任して九ヶ月が経ち、大過なく過ごすことができています。「始めの一年は学び」として、寺に自分の身体を馴染ませることに専心しながら勤めてまいりましたが、そろそろ色を出さねばとムクムクもしてきました。

 新年です!就任一年目ですが、「未来を考えたい」。より正確に考えるためには、絶望的と思いながら世界や社会を凝視しなければなりません。ヘミングウェイの代表作の一つに『日はまた昇る(The sun also rises)』があり、百年ほど前の第一次世界大戦が終わったフランスやスペインをアメリカ人の視点で描いています。1914年7月に始まった戦争は1918年11月に終わり、その四年間に中世からの封建社会や制度(ベル・エポック=良き時代)は終止符を打たれ、ノブレス・オブリージュ(高貴さは義務を強制する)は彼方へと吹き飛び、一般人が大量動員された上に、凄まじい兵器が使われ夥しい犠牲を産みました。更にその二十年後には第二次世界大戦となり、パックス・ブリタニカからパックス・アメリカーナとなり、現代は人間の持って生まれた動体視力では追いつけないほどの情報が飛び交う社会となりました。

 「ロスジェネ」とは、日本では就職氷河期に新卒(1993〜2005年)となった世代で、格差社会や貧困の体現者とされ、年齢では36歳〜48歳位の約2,000万人のことを言うようです。元祖の「ロストジェネレーション」は、第一次世界大戦の体験によって、宗教も道徳も人間的な精神も押し潰され希望を失い、絶望と虚無に落ち込んだアメリカの戦後作家に与えられた呼称でした。その一人のヘミングウェイは、「我々は単に打ちのめされた世代であって、失われた世代ではない。たとえ教育制度が一部において低下していたにせよ、実は極めて堅実な世代なのだ。」「一世代が過ぎ去っても、また次の世代が訪れる。大地は永遠に存在するのだ。」と述べています。

 私はよき未来を考えるにあたり、「大地は永遠」「教育の機会」「世代の記憶の継承」さえ失わなければ、「日はまた昇る」ことを信じています。

 皆様が心穏やかに本年一年を過ごせるよう、元旦より祈念してまいります。

「山風」77号 掲載